デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

41号から最新号まで

1号から40号まで



Categories:

展示会の総括

「百人一首版画シリーズ」の第10回、完成展示会。今年は、いつもの型を少し替えてみました。会期を6日間から9日間に延ばし、2週間早めてお正月に開始したのです。ここ数年、雪に悩まされる事が多かったので、会期をちょっと早めることで悪天候を避けることができるよう期待したのです。予想は適中して、9日間ずうっと晴天に恵まれました。

6日間から9日間に延ばしたために、ギャラリーの使用料は通常の60万円から90万円に引き上がったのですが、採算は十分とれました。会場はいつもお客様でにぎわい、ゆったりと版画を見られないほど、大勢の人達が集まったこともありました。もしも6日間しか開催しなかったら、もっと混雑してしまったことでしょう。

実のところ、今回の展示会が始まる一月前までは、お客様の出足がちょっと心配だったのです。始めのうち、私の出したマスコミ向けの案内に対してあまり反応がありませんでした。それで、報道関係の人達は、もう私の事はたくさんだと思っているのではないかと心配したのです。でも、開催の何週間か前になると、インタビューや放送出演の依頼などがたくさん舞い込んできました。そして、主だった新聞のほとんどに、満足のできる良い記事が載りました。また、「首都圏ネットワーク」というニュース番組にちょっとだけ出演したのですが、去年と同様、NHKは一番強い影響力をもたらしてくれたようです。お陰で、この番組を見たという人が、たくさん来て下さいました。

会期中の9日間は、とても充実した日々でした。自分の仕事や版画製作全般について話をするのはとても楽しいので、たとえそれが、何百回も答えたことのある質問でも、喜んで説明ができました。また、ほとんどのお客様は、百人一首の版画が目的ですから、作品が展示されている壁面の方に、自然と関心が引き寄せられていました。でも私の関心は、ギャラリーの奥に設えた小部屋の方にありました。(もっとも私は、もう百枚を全部見てしまっていましたから)

この小部屋は、天井からの光を消して、障子を通して差し込む薄明かりだけにしてありました。そして、新しく始める「摺物アルバム」がどんなものかを示すために、見本の版画が置いてありました。柔らかで優しい明かりの下で見ると、木版画とは実際にどんなものなのかということが、お客様に良く分かったようです。柔らかくふわりとした和紙に淡い顔料が馴染んで、どんなに美しいかということがです。人々が小部屋中に入って版画を手にし、「うわあっ」と歓声をあげます。入り口のすぐ外でこれを聞くのは、ことのほかうれしいものでした。また、明治以降すっかり忘れられてしまっている版画の見方を説明するのも、本当に楽しいことでした。


 

こうして、展示会そのものは大盛会でしたが、営業面からはどうだったでしょうか。嬉しいことに、こちらもとても満足のいく結果でした。今回の申し込みの量は、過去5年間の総合計よりも多く、全セットを注文された方もかなりな数に上ったのです。その方々は、今後何年か掛けて集められるので、私の版画家としての生活は当分続けられそうです。一方、新しく始める「摺物アルバム」も、作品となる絵を提示しなかったにもかかわらず、大勢の人に気に入って頂け、大満足です。好調なスタートで、百人一首シリーズを始めた当時、ほんのチョボチョボとしか収集家が集まらなかったことを思うと、長年の積み重ねがついに報われたと実感いたします。私のしようとする事を人々が分かってきている。そして、美しい版画を自分の物にしたいと熱心に思っているのです。

今回の展示会のハイライトは、やはり土曜日の夜のパーティーにありました。二人の娘達と百枚の版画の前に立ち、会場に集まった収集家の方々の見守る中、百人一首版画シリーズの完成を祝して、ダルマのもう一方の目を描き入れた時でした。これから先何年生きようとも、これほど感動することはないでしょう。あの時、涙でむせんでしまい、皆様に「ありがとう」の一言も言う事ができなくなってしまって.......。

きっと、分かってくださった事と、思っているのですが.....。

コメントする