デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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山本正勝様

私が山本正勝さんにお会いしたのは2年半前、初めての大阪での展示会の時でした。 そこで彼は百人一首の版画の全セットを注文され、またその時、趣味で「すごろく」に関係のあるものを集めておられる、と話されました。 古いもの中には木版画の技術を使って作られたものがあり、私の仕事とも関連があって、なかなかおもしろそうに思えました。 その時、山本さんは「いつかコレクションを見にいらっしゃい」とおっしゃってくださったのですが、大阪は遠いですし...私も大変忙しく...なかなか機会がありませんでした。

しかし、この2月、名古屋で開かれたあるフォーラムに招かれたついでに、大阪府箕面市にある山本さんのお宅を訪ねることができました。 コレクションを収めてある部屋に入ってすぐ、ここへ来るのが2年も遅れてしまったのは大きな過ちだった、と感じました。 そこで私が見たものは、まさに「Incredible!」としかいいようかありません。

子供のゲームを集めたものの何がそんなに「すごい!」のでしょうか? これは本当に大の大人が時間をかけるだけの価値のあるものなんでしょうか? なんと、山本さんは仕事(皮膚科のお医者さんです)をしている時と寝ている時以外のすべての時間を、このコレクションのために使っておられるのです。 そこで4時間くらい、広大なコレクションの中のとりわけすばらしいものをいくつか見せていただいたのですが、子供じみたものはひとつもありませんでした。 彫り、摺りの美しいすごろくが、低いテーブルに何百枚も積み重ねられていくと、さながら江戸時代の生活絵巻が目の前で繰り広げられているようでした。 人々を楽しませたり、情報を与えたりしてくれるテレビも新聞も雑誌もなかった時代に... これらのすごろくがその役割をはたしていました。 そこに描かれているものは無限にあります。 歴史、旅、歌舞伎、日常生活、性、宗教... みんなこれらの紙に写し出されているのです。 布きれに摺られて破れてしまったものも、美しい芸術作品も、これらの版画のひとつひとつがおもしろい物語を秘めているのです。

その部屋は、床から天井まで壁という壁に、箪笥や棚がひしめいていました。 山本さんは、何か私に見せたいおもしろいものを思いつく度に、ひとつの棚を脇にのけ、また別の棚をじゃまにならないところへ動かし、そうやってようやくお目当てのものを探し当てて、「やったぞ!」というような目をしてそれを持って来てくださるのでした。

コレクションの中には大変めずらしいものもありました。 ていねいに摺られた木版画の本、殿様の娘のものだったというボードゲーム、手塚治虫の原画、中国古代の版画、絵巻物... 何時間も何時間も、私的な「展覧会」が続きました。

ここまで読んできて、みなさんは山本さんに対してどのようなイメージをもたれたでしょうか。 日中は仕事、夜はずっとコレクションを収めた部屋にこもって何かしていて、自分の自由になる時間とお金はすべて趣味に使ってshまう... これは理想的な「マイホームパパ」とは程違いイメージです。 しかし、私たちがその部屋で数時間を過ごした後で、奥様の武子さんが入って来られたのですが、彼女のお話を聞いて私は少なからずびっくりしました。 武子さんは、御主人が家族のささえや助けを楽しんでおられるようすを、山本さんと同じくらい生き生きと楽しそうに話されるのです。 彼女は、コレクションのコンピューターデータベースを作るという大変手間のかかる仕事を、御主人と一緒にされています。 そして、人生を最高に楽しんでいる男性のパートナーであることをとても幸せに思っておられて、山本さんがこのすばらしい計画に時間とお金をつぎこんでしまおうことに不満をもっておられるようすは少しもありませんでした。

ここで、この話を読んでくださったみなさんにちょっとお願いがあります。 山本さんのコレクションは膨大なもので(4500以上のすごろく、1400冊以上の本や関連した物)、完成するということはありえないようです。 山本さんはコレクションに加えるものをまだまだ探し続けてあられます。 もちろん、これを読んでいるほとんどのみなさんにとって、ふだんの生活のなかで、江戸時代のすごろくに出会うことなんでありそうもないことだろうと思うのですが、山本さんはすごろくに少しでも関係のあるものなら、何でも求めておられるのです。 (ある棚にはハローキテーの本まで置いてありました... きっと中にすごろくの絵があるのでしょうね。) ですから、もしみなさんが、おもしろいかもしれない、と思うもの(地方新聞の記事でも、雑誌の写真でも、古本屋さんのほこりにまみれた本でも...)を何か見かけられたら、どうか葉書で山本さんにそのことを知らせてあげてください。 どんなものでも、大きすぎるということはありませんし、小さすぎるということもありません。 みなさんは、「とても幸せ」という状態を「もっと幸せ」な状態にするお手伝いをすることになります。

〒562 大阪府箕面市箕面8-4-7 山本正勝様

以前書いたように、私は百人一首の仕事が終ったら次に何をするかまだ決めていません。 でも、今回の訪問で思ったのですが—絵のどこかにすごろくの絵が隠されているようなものだったら...少なくともひとりはお客さんがつきそうだな!

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