前回からの続く...
前回書きましたように、私は冬になっても屋外での演奏を続けました。 でも寒すぎたりして上がりの悪い週には、家賃捻出のため他の仕事を探さなくてはならなくなったのです。 当時は深刻な失業問題もなく、肉体労働ならばいろいろありました。 職業紹介に登録しておき、月曜日の朝早く事務所に行くと一週間分の仕事がもらえたのです。 5日間仕事をして金曜日の夕方には給料を受け取りました。
どんな仕事ですかって? そうですね、ある週は、ワインボトルにラベルを貼る機械の操作。 またある週は、家具店で陳列の手伝い。 月曜の朝、すぐに解雇されたこともありました! それはレンガ運びの仕事で、やせっぽちの私には到底無理だということを知っておくべきでした...
これらはみんなおもしろい経験でしたが、時が経つにつれ、私は自分のフルートをどうしていくのか、ということについてきちんと考えなければなりませんでした。 イギリスに行く前、多くのフルート奏者のレコードを聞きましたが、私が最高だと思ったのはウイリアム・ベネットでした。 当時、彼は、ロイヤルフィルハーモニックオーケストラで第一フルート奏者をしていました。 私は大変内気な性格だったので、彼に会う方法を見つけるなんてできそうにありませんでした。 しかし、春先のある日、勇気を奮い起こして、電話帳で彼のロンドンの住所を調べ、フルートを小脇に抱えて玄関の階段を上り、ドアのベルを鳴らしました。 彼は自分でドアを開けると、私が話すより先に、「おや、君はフルート吹きだね。 さあ、中へ!」と言いました。 私が部屋に入るか入らないかのうちに、彼は私のフルートケースに手を伸ばしていました。 「これは美しいケースだね。 君が作ったのかい? 僕にも作ってもらえないだろうか? 2階へ来てくれ、僕の仕事場を見せてよう...」 彼は一流のフルート奏者であるだけでなく、フルートの設計に大変興味を持っていて、もっとよい楽器を作ろうと、屋根裏の仕事部屋でせっせと試みていたのでした。 どうしたらフルートがもっとよいものになるかということについて、彼はたくさんのアイデアを持っていたのですが、彼の金属加工の技術はごく基礎的なもので、彼がもっとよい音を求めて改造した楽器は、雑にはんだ付けした部品を寄せ集めたへんてこなものでした。 もちろん、私はこれにとても興味を覚えました。 そして、設計の理論について数時間話し合った後、ようやく「さて、君の演奏を何か聞かせてもらおうかな...」と言ったのでした。
前回、オーケストラの指揮者の前で演奏した時は、彼の顔が演奏を聞いてぱっと明るくなるのを見て、満ち足りた気持ちになりました。 でも、今回は違っていました。 ベネットはたくさんの弟子をもっていました。 彼らはイギリスでも最高の若い演奏家たちでした。 私の音色を聞いてすぐに、彼の顔に軽い矢望の色が見えたのを私は見逃しませんでした。 しかし、これは大変おもしろい訪問となりました。 2、3日してようやく自分の部屋に戻った時には(私はソファで寝ていました)、私は「フルートケースをいくつか作ってくれ」という彼の注文を受けていました。
この出会いは、私の方から押し掛けたものでしたが、この後に続くある出会いはまったくの偶然によるものでした... ある日、カフェで食事をしていた時、若い女学生と彼女の父親が近くに座っているのに気がつきました。 彼女はフルートケースを持っていました。 彼らに話しかけてみると、大変おもしろいことがわかりました。 父親は、娘にもっといいフルートを作ってやりたいと思っており、彼は金属加工にかけてはプロ(コンコルドの機械技師)なのですが、フルートの構造については素人でした。 もちろん私はこの話を興味深く聞きました。 それからまもなくして、私は彼の家を訪れ、びっくりするような体験をしました。 「びっくりするような」というのにはふたつの理由がありました。 ひとつは、彼の案内で、コンコルド旅客機を作っている工場の個人見学をしたこと。 そしてふたつめは、フルートの頭管部を彼が旋盤で作ってくれたこと... しかも私が見ている目の前で! となればもちろん、次にやるべきことはおわかりですね。 この二人を結びつけることです。 私は二人が会えるようにはからい、彼らがおたがいの知識を出し合って仕事を始めるのを見ていました。
彼らが協力した結果、革命的に新しいフルートが誕生し、世界を席巻しました...と言えればいいのですが、実のところ、その結果がどうなったのかは私は知らないのです。 というのは、カナダにいる音楽仲間からの連絡で、夏の音楽キャンプの補助教師としての手伝いを頼まれたからなのです。 キャンプが終わったらまたロンドンに戻って来るつもりで引き受けたのですが、ことは違った方向に進んでしまいました。 キャンプで出会ったのが銀のキー付の管でなくて、ある女性だったからなのです。
次回へ続く...
コメントする