デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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ハリファックスから羽村へ

前回からの続く...

ここ何年かこの自伝的なエピソードを書いていて、私は時々両親に電話をかけて過去の出来事を思い出してくれるように頼まなければなりませんでした。私自身の子供時代の記憶はそれほどはっきりしていませんから。しかし、今回からは、両親の助けをあてにすることはできません。両親は、今や私が書くのを読んで、この愚かな子が次に何をやらかしたか知るのを心待ちにしているのです...

イギリスに着いた時私は、少しばかりの服、フルート、何曲かの音譜の入った小さなスーツケースと、財布には約100ポンド、私が落ち着くまでの数週間暮らしていくのに十分なお金を持っていました。父はこの他に、自分の友人の電話番号を書いた紙を渡してくれていました。その友人というのは、父が昔やっていたビッグバンドのドラマーで、私が洗礼を受けた時に立ち会ってくれた人でもありました。何か困ったことがあったり、もうどうしようもないような事態に陥った時には、この人が私の手助けをしてくれることになっていました。

私がまずしなければならなかったのは、泊まる場所を見つけることでした。あちこちを歩きまわっていて、ふと電柱に貼ってあったロンドンのハマースミス区の貸室の広告が目に止まりました。私は、数分後にはその家を訪れて、1週間分の部屋代を払い、その部屋に落ち着きました。部屋代は約5ポンドで、これには朝食が含まれ、トイレを使うこともできました。洗濯機とお風呂はありませんでしたが、この時の私はそんなこと気付いてもいなかったのではないかと思います...

それからの数日は、夢のような日々でした。観光地を訪ねたり、大きな博物館へ行ったりして、この素晴しい町を歩きまわりました。この最初の1週間のある午後、私は楽器店の並んだシャフツベリー通りを見つけ、そしてここで恋に落ちてしまったのです...一目で。美しい! 私は見た瞬間からとりこになってしまいました。ベルベットのケースに気持ちよさそうに横たわり、黒い木管に銀のキーを輝かせて... そう...それは美しい木製のフルートでした。私が長年夢見てきた楽器です。そして外見と同様音色も素晴しかったのです。財布の中身を確かめてみると、ちょうどこれが買えるだけのお金が残っていました。私たちは手に手をとって店を出ました--つまり、フルートを鞄に入れて!

ですから当然の結果として、その週の終わりには、私は職を見つけることもフルートの勉強をするための手配もしていなかったことに気付くだけでなく、次の週の部屋代を払うためのお金すら持っていませんでした。でも、私は決して父の友人には電話をしませんでした。それで、どうするかを考えなくてはなりませんでした...急いで。そこで私は自分のフルートを使ってお金を稼ぐことにしました。その夕方、私はロンドンでも有名なコンサートホールの入口の外に立ち、フルートのケースを開けて前の地面に置き、演奏を始めました。それはうまくいき、私は一晩で次の週の部屋代を払うお金を得ることができました。

私は、なんとか暮らしていくために、1週間に数日、この「大道芸」を続けていました。これをするにはあまりにも寒い季節になるまで。そしてなんとも不思議なことに、ホールの外で演奏していた私は、すぐにホールの中での仕事を得ることができたのです! ある夜、演奏していると、私は数年前カナダで知り合った友達を見つけて驚きました。彼は今はロンドンで演奏家になっていて、自分が時々仕事をするオーケストラの指揮者の名前を教えてくれました。それはロンドンの大きくて著名なオーケストラではなく、インペリアル・カレッジのオーケストラでしたが、私はそんなことはかまいませんでした。早速、この人に会いに行くと、彼は「何か吹いてみて」と言いました。その後驚いたことに、彼はその場で私に、彼のオーケストラと仕事をしないか、ともちかけました。団員ではなく、まもなく行われるコンサートの独奏者としてです。

もちろん私は喜んで引き受けました。こうして、再びオーケストラの前に立ってモーツアルト(またモーツアルトです!)の協奏曲を演奏することになったのです。これが、私のロンドンでのプロとしての仕事の始まりました。幸運にも、私はこの時知りませんでした、それが最後でもあった、ということを...またもや、そう、今までも何度もあったことで、そしてこの後も何度もあったことですが、またも、まもなくして私はちょっと横道にそれてしまったのです... 家具製作? ギター? 作曲? いいえ、違います。今回は、超音速ジェット旅客機コンコルドの中で...

次回へ続く...

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