デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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私たちはみんな隣同士です

昨年の夏、私たちが子供たちの田舎に泊まっていた時、私は毎日、夕方は川の土手に座って過ごしました。そこは大変安らげる場所で、暗くなってもうこれ以上はいられないくらい寒くなってから家に帰ってくると、私は毎日ノートをとりだして、その平和な光景から思いついた事柄について短いエッセイを書きました。そこに2週間滞在し、私は14のエッセイを書きました。

東京に戻って山積みになった新聞に目を通していると、読売新聞で、次のようなテーマでエッセイコンテストの参加作品を募集しているのが目に止まりました。「私たちは環境のために何ができるだろうか?」 私は、これは私が書いていたものにぴったりだ、と思い、14のなかからひとつを選んで送りました。みなさんのうち何人かの方は先月すでに新聞などで御覧になっているかもしれませんが、私のエッセイは幸運にも優勝し、環境庁長官賞をいただきました。

これは「百人一緒」とは何の関係もありませんが、こういうのもちょっとおもしろいかもしれません...

* * *

私は日本にすんで 8年になります。今では日本の事情にも慣れ、当時の日本と現在とのいくつかの違いがわかります。

私立ちは、毎年夏、子供たちの祖父が住んでいた田舎へでかけます。そこにいる間、毎日川で泳ぎます。川はたいてい、日焼けした小学生の子供たちでいっぱいです。初めてその川へ行った時、川にゴミがたくさん捨ててあるのを見て、大変驚きました。村のちょうど真ん中にあるこの美しい遊泳場所が、がらくたでだいなしになっていることにがっかりしました。

 私たちは村の子供たちに何も言いませんでしたし、叱りもしませんでした。でもある日、ゴミに耐えられなくなった私たちは、いくつかの大きなビニール袋をもってきて、ゴミを集め始めました。川で遊んでいる子供たちの反応には 2つのタイプがありました。たいていの子供たちは私たちのしていることに気づかないのか、あるいはただ無視していました。でも、ごく少数でしたが、何人かの子供たちは私たちを手伝って、ゴミ拾いを始めたのです。

その時から、私たちはこれを習慣としました。川に泳ぎにでかけた時には、いつも様々なゴミのはいった袋を持ち帰りました。そして、村の人たちもしだいに私たちのすることに慣れてきたようでした。毎年毎年、拾うものはいつもたくさんありました。ゴミはいくつかのお決まりのものがほとんどでした。小さい子供が投げ捨てたカップ麺の容器やスナック菓子の袋。その父親たちが捨てたコーヒーやビールの缶、たばこの空き箱。そして(これがもっとも始未が悪いのですが)、明らかにこの川のまわりにある田んぼの農夫たちが捨てたと思われる、農業用の化学肥料などがはいっていた大きなビニール袋。

これは 8年前の話です。今、この川はどうなっているでしょう。日本の多くの人が知っているように、状況はかなり改善されました。ここ数年、川から持ち帰るゴミは大幅に少なくなり、泳ぎに行く時にゴミ袋をもっていく習慣はなくなりました。まだ完全ではありません。カップ麺の容器やスナック菓子の袋はいまだに散らばっていますが、空き缶や空き箱はほとんど見られなくなりました。そして、ここ何年も、農業関係のゴミは見たことがありません。状況が改善されたのは私たちの行動のおかげだ、などと言うつもりはありません。私の家族が村に滞在していたのは、毎年数週間だけのことです。日本中が次第にきれいになっていく現象はこの小さな川よりももっとスケールの大きなものです。

1960年代に行なわれた東京オリンピックが大きな転機になったと聞いています。友人たちの話では、その前は、私の家の近くを流れる多摩川も、廃車、タイヤ、家具、家庭ゴミなど、ありとあらゆるゴミが山のように積まれていたそうです。しかし、オリンピックに来るお客さんにきれいな顔を見せたり、という気持ちから、徐々に新しい倫理観が古いものに取って代わったのです。今では廃車の代わりに桜の木が植えられ、このあたりは近所の人々の憩いの場となっています。

そういうわけで、今、多摩川流域はきれいになっています。以前は、そこを誰のものでもない「外」のものだ、と考えていたのが、今では「内」、地域の人々みんなのものだ、という意識に変わってきたからです。次のステップは明快です...この考え方を広げていくのです。自分の近所や町だけでなく、ひとりひとりの「御近所」、町、山間部までを「地元」に含めてしまうのです。

こうすれば誰にでも何かができます。地域全体を自分の家だと考えてみましょう。そこをきれいにし、資源を無駄使いしないようにし、他の模範となるようにしていきましょう。

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