デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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島田文二ご夫妻

>この「収集家の紹介」シリーズの初期に、白いエプロンに帽子姿のパン屋さんの長さんをお訪ねしました。今回は、同じような服装の島田さんです。パン屋さんじゃない、ラーメン屋さんです!

初めて島田さんにお会いしたのは 4年前ですが、その時は今とは全然違う仕事をされていました。生花業界の会社員だったのです。でもその仕事に満足されていなかったのでしょう。1年前にはそこを辞めて、自分でラーメン屋を開き、今は奥さんの米子さんと一緒に働いていらっしゃいます。

先日の午後、お二人を訪ねましたが、ゆっくりとは話ができませんでした。お客さんが多くて、注文のたびに会話がさえぎられるからです。でもこのおかげで、私は座りながらお二人の仕事ぶりをじっくりと観察することができました。日本に来てから今までに、数え切れないくらいのラーメンを食べました。しかしこういう光景は見たことがありません。大きなミソの固まりと手頃な大きさの「ミカン」が麺の山に乗り、大きなオタマいっぱいのスープ、手のひらのサイズのハムが5枚、さらにモヤシ、野菜、コーン。これが、ピザほどの大きさの器がかくれるくらいに盛られているのです。これで一人前です! 私なら食べきるのに1週間かかります! しかし、島田さんがこの巨人なラーメンを目の前においても、お客さんはまばたきさえしません。この店の常連にとっては当たり前なのでしょう。

たった二人でこういう店を切り盛りするには、たくさんの時間がとられます。前の仕事と比べると、1週間のうちで働いている時間は2倍くらい増えたそうです。経済的な安定性も(もちろんボーナスも)ありません。島田さんが夢中で取り組んできたことが感じられます。自分には、なぜそんなに夢中になるのかわからない、と考える方もいらっしゃるでしょう。そんなに時間をかけて? お金のために? そんな問題ではありません! 自分のために働いているという達成感が重要なのです。島田さんは前の会社を辞める前にも、こういう経験をされたことがあります。自分で家を建てようとして、みずからハンマーを手にしていたことがあるからです。(私の作品の収集家のうち、二人が自分の手で家を建てたというのは単なる偶然でしょうか?)

島田さんご夫妻がお客さんにラーメンをお出しするのを見ていて、私は考えざるをえませんでした。私の版画を集めるための費用がどのくらいの負担になるのか。食材や設備、家賃などなど、相当な支出があるのは明らかです。お客さんが支払う 600円ほどの代金では、それほどの金額は残らないでしょう。私の版画一枚の料金を支払うのには、ラーメンを何杯作らなければならないのでしょうか? そのことを考えると困惑してしまいます。お二人は、私の版画を60枚お待ちなのです!

もちろん、すべての収集家の方にとっても事情は同じです。色のついた紙と引き替えに、大変な思いをして稼いだサラリーの一部を送ってくださるのです。でも島田さんの場合は、その負担が特にはっきりと目に見えます−1杯...2杯...3杯... 毎月毎月、何時間にも及ぶ労働の結果が、私の夢を支えてくれています。どうすれば十分な「ありがとう」が言えるのでしょう? いかにすればお返しができるのでしょう? 方法は一つしかありません。報いるだけのよい仕事をして、ふさわしい版画シリーズを作ることです。そうすれば、百人一首シリーズに参加してくださっているお二人も、誇らしく思われるでしょう。

ですから、この店の近くにお住まいの方は、どうか時々立ち寄ってみて下さい。輝くように清潔な店と、壁に飾られた書を満喫して下さい。ただし、行かれるときには、必ずお腹をペコペコにしておいて下さい!

島田ラーメン店
東京都 武蔵村山市
残堀 5ー153
0425(69)2182
(毎週水曜定休)

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