デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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跡見学園短期大学図書館

私の版画作品を収集していらっしゃる方を訪ねる時、作品がどのように保管されているのかにとても興味があります。ケースに保管したまま、本棚の下の棚に整然としまっている方もいるでしょうし、押し入れにしまいこんでいる方もいるでしょう。しかし、大勢の方が、版画コレクションを「バラバラに」して友人にプレゼントしたり、家族で分けていらっしゃるのにはとても驚きました。もちろん、ご自分のものをどうされようとも私が口をはさむことではありません。でも、私の「子供たち」が「家族」と離れるのはちょっと寂しい気持ちがします。

昨年の事ですが、ここ東京の跡見学園短期大学図書館が、有名な百人一首関係のコレクションに私の作品を追加したいと思っている、ということを聞いたときはこの上もなく嬉しく思いました。版画シリーズをバラバラにしない収集家の登場です。

高橋美枝子さん、中井敏江さんとおっしゃるご婦人に初めてお会いしたのは、昨年の新宿での展示会でした。それ以来ずっとお二人はコレクションを始められ、私との手紙の交換もされています。お二人が慎重に管理されているとても印象的な百人一首関連のコレクションは1700点を越えています。その中で、書籍が占める割合が多いのですが、すべてではありません。お仕事について知りたくて、この間お訪ねしたときのことですが、お二人は広範囲に渡るとても興味深い収集品を、いとおしむように見せてくれました。人形、巻物、それにもちろんカルタがありますし、便箋からハンカチやセンベイの包みなど、百人一首をモチーフにしたものばかりです。中でも一番面白かったのは一対の茶碗です。どちらも茶碗の内側に非常に細い筆で、百人一首のすべての歌が書かれていました。

コレクションには、歴史的にも重要なものがたくさんあります。現存する百人一首に関する資料としては、 2番目に古いことが確認されている本も含まれます。学者は研究のために資料を利用していますし、新たに発見された草稿により、藤原定家が百人一首のもともとの編纂者だったのか、という長期間に渡って論議されていた問題が解明された、といった話をお二人に伺うのは大変に興味深いことでした。

私の版画セットが 1ヵ月ごとにコレクションに追加されている、ということを考えるのはとても嬉しいことです。今から何百年後に、学者や研究者が私の作品をここで詳細に調べることが出来る、と考えるとほのぼのとした気持ちになります(私の版画は東洋文庫にも送られています。私はそこで初めて春章の本を見たのです。このことはいずれ書きます...)。高橋さん、中井さん、私の仕事に興味を持ってくださりありがとうございます。お二人は、仕事を離れて個人として、一般には知りえないような公共機関のコレクション情報を教えて下さいました。今後ともずっとお付き合いをしていただれば幸いです。

(コレクションは通常展示はされていませんので、「ぶらっと立ち寄って」も見られません。しかし特別な用途があればこの限りではありません。その場合は予約を入れて下さい。)

跡見学園短期大学図書館
〒112 東京都 文京区
大塚 1ー5ー2
03(3943ー1368)

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