デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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彫りについて

『百人一緒』の春号(#3)で、私は、絵の描かれた薄い紙である版下を貼ってそれぞれの版木の準備過程について述べました。今回は、彫りに使う道具そのものについてみていきたいと思います。

現代のやり方で彫りをしている人は、驚くほどいろいろな刃やノミを用いますが、過去に生きることを選んだ(少くとも過去の仕事をする)私達少数の者は一般に、より限られた道具を用います。サイズがいろいろあり、仕事の進み具合における細かさに応じて選びます。 もっとも重要で、彫りの心となるのは、刃です。歴史書によると、その昔、大刃と一緒につけた小刃にさかのぼり、まさに年とった彫り師のうちにはそれを『こがたな』と呼ぶ人がいます。実際、日本の刃のある道具はすべて二層の鋼鉄を合わせて作られています。炭素の含量がそれぞれ違っており、一層は特に刃の切れを出し(しかしもろい)、もう一層はそれを助けて、強さと、弾性を与えます。もちろん、日本の金属仕事の技術は、何百年の間に一段と進歩しました。そのもっとも有名な例はかたな作りですが、日々使われる木彫り用の刃でさえも、基本的には同じ過程を経て作られます。

刃は信頼できる道具で、彫り師自信が毎回研ぎ、石のようにかたい桜の木にシャープな切り入みを入れることができます。考え方は単純で、『黒い線のとうりに彫る』ですが、数え切れないほどのコツやテクニックがありそのほとんどは、自分で発見することによって得ましたが、又何人かの彫り師の方にも教えていただきました。私は少しづつ、私の使う刃は木をひっかく金属の一片ではなく、字や線を書く書道の筆のように考えるようになってきました。

全部の輪郭に刃を入れ(これには何週間もかかります)それから周りのいらない部分を『丸ノミ』を小槌『コヅチ』でたたきながらけずっていきます。床はたちまち木くずでいっぱいになります。彫り職人の伊藤さん(将来このニューズレターで紹介させていただくと思います)の仕事を見せていただいた時のことを思い出します。彼は、広い丸ノミと巨大な小槌を用いて、細かく彫った部分に数mmの所まで版木を削っていきます。仕事をしながら私と話し、時として、ノミがどこにいくか見てさえいませんでした。

この段階が終わると、彫り師は『間い透き』又は『平ノミ』を用いて、彫った線の間に残っているいらない部分や、丸ノミで削った部分をきれいにしていきます。私の間い透きは巾が 3mmから0.5mmのものまであります。時として、非常に広い部分は、『相合ノミ』を用います。摺り師が『見当ノミ』で、紙をあてるガイドマークをつけますが、伝統的な彫り師にはここに述べた 3種類の道具で十分です。これらのシンプルな道具の手入れ方法や使い方を学ぶのはとても楽しいことです。そして私が伊藤さんの年令に達した時には、これらの道具に慣れ親しんでいるでしょう。その時まで、よく見て、練習して、長年の間には伝統的な彫り師の技術を獲得するようにつとめます。そんなに長く生きられるでしょうか。

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