デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

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色分け

昨年の『秋号』で、私は彫りの為の基本である墨線用の版木の準備について書きました。もちろん各版画の色の部分を摺るのにも版木が必要です。それらをいかにして準備するのでしょうか。

墨版(基本の版)が彫り終わるまでは、色版の準備は出来ません。現代の版画製作では黒は単に一つの色にすぎなく、他の色と同じように取り扱われるでしょうが、浮世絵では、色版を製作する基になります。単に興味本位に、私は色をつけないで墨すりのままの版画のセットを手元に置いています。これらは、完成した版画と同じほど心ひかれるものです。事実、これらのモノクロ版画では、色に気をとられないから、生き生きとした流れる線が紙の上で動きます。

墨版を彫り終わると、版木にくっついている原画の紙をきれいに取り除き、すきとおるように薄い紙に墨線を摺ります(墨線を摺った紙を校合『きょうごう』といいます)。これらの紙は、墨版に用いたのと同じような非常に薄い紙です。出来上がりの版画の色の数だけ校合摺りを行います。それぞれの校合に、注意深く色別に印を付けます。ハイライトを用いて、たとえば皮膚の色をするべき部分にマークを付けます。他の校合には、着物の部分にまーくを付けるといった具合です。そのようにして全部にハイライトを付けます。各色一枚づつ必要です。昔は、これをするのに朱を用いました。しかし私は蛍光『ハイライター』(紙にしわがつきにくい)を用います。全部終わってから間違いがないか確かめ、それぞれの校合を表を下にして注意深く版木にはりつけます。それから、マークにしたがって彫ります。これで、出来上がりの版画に必要な全色の版木が出来上がることになります。もし私が注意深く仕事をやり終えたとしたら、彫った色板の部分は、墨版の対応する部分とマッチします。

この手順にはもうひとつの必要なステップがあります。実際の摺をする段になった時に、注意深くほった各版木に紙を合わす事ができなければなりません。墨は常に一番始めに摺り、その紙は、色板の正確な位置にもっていかなければなりません。それには、1700年の半ばに日本の版画職人が最初に用いた見当『けんとう』という工夫が用いられます。墨版を彫るときに、紙を当てる小さな 'L' 字がた溝を版木の一つの角に作り、小さな真っすぐの溝を版木の縁にそって彫ります。これらのマークの位置は、上で述べた校合に表れ、マークのマッチした見当を各色版に彫ることが出来ます。

摺に際しては、紙の角を 'L' 字型(かぎ見当)に合わせ、紙の縁を真っすぐの溝(ひきつけ)に合わせ、版木の上に紙を静かに落とします。少なくとも理論的にはうまく行きます。実際には別問題です。たくさんの因子が、この手順をもう少し複雑なものにします。それぞれの紙の湿る具合(湿り具合が大きいと紙はより拡大します)、部屋の湿度(これはシーズンによって非常に違います)、版木の上と下の湿り具合(版木の反り返りの度合いをコントロール)、摺に加える力の量(紙がのびる)、そしてもしかしたら金星の並び方かもしれないと思います(私がコントロール出来ない何かがあるのでしょうか、それでなければ何のせいにすればいいのでしょうか)。

時には総てうまくいき、見当や引き付けの調整の必要がありません。これは稀です。見当は、仕事中常に調整するというのが普通です(非常に経験のある摺師でさえもそうです)。版木からはがす度に間違いを見付けて正すために、一枚一枚一色ごとに調べなければなりません。それは大変やっかいな手順です。前のニュースレター(1990秋号)の6ページの原画の写真を見ていただきますと、冠のえいの部分の色が、約1mmずれたいつことがおわかりになると思います。摺師は次の紙の摺にかかる前に、必要な調整をしたと思います(少なくとも私はそうであったと願っています)。

版画製作は難しい仕事ですが、おもしろく、私の性格に影響を及ぼしています。几帳面に、注意深く、そのうえに忍耐強くなるように訓練されます。私の両親は、これを読むと大笑いするに違いありません。

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