デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

41号から最新号まで

1号から40号まで



Categories:

刃物職人 - 碓氷金三郎さん

国境の長いトンネルをぬけると...まさに川端氏が見たよりずっと長いトンネルで、又 彼が乗ったのよりずっと速い列車であった。 私の彫刻刀を作って下さる職人さんである碓氷金三郎さんの仕事場を訪ねるのに上越新幹線に乗りました。 小説と同じであると確認するには、残念なことに季節は五月の下旬でした。 町について、バスからおり、彼の仕事場へと歩き出しました。 私が雪国にいるのだと知らせてくれるものは、店の前の歩道を覆っている屋根と冬に連続的に働いて雪がつもらないようにする道の真ん中のスプレーのノズルでした。

版木をけずる職人である東京下町の島野さんを 2ヶ月ほど前に訪ねたのは、タイムマシーンで過去への旅でした。若いグリーンの稲が浅い水の上に顔を出している有名な新潟米の田んぼに囲まれたここ新潟では、何を見つけるでしょうか。

それは、12時前で、仕事場の入り口で『ごめんください』と言ったけど誰も答えません。 私の声が聞えたとは思いません。 地面そのものが震えており巨大な機械のハンマーが薄暗がりの中で白熱した金属板をたたいている。私は、前に進みます、そして碓氷さんが炉の口と巨大なハンマーがくり返し落ちている金床(かなとこ)の間に立っているのが見えます。 彼は、白熱した鋼鉄の板を炉の火の中から一つ一つひき出して、子供が粘土をこねるように彼の好みの形にする為に金床の上に置いている。 機械のドシンと落ちる力がすべてを支配している。 それは変わらぬリズムで打ち続け、まるでひどい機械のドラマーが、地中深く打ち続けようと決心したかのようです。 碓氷さんが顔をあげ、私にうなずいてから、彼の仕事を続けます。 この騒音を、彼はいかにしてがまんしているのだろうか。 ついに最後の金属板が炉から出て、ハンマーの下に置かれ、それから冷やすために前のと一緒に床に積みあげられる、ハンマーは止まる。私達は話すことが不可能です。 私の目は、その部屋が静かになったことをつげるが、私の脳は信じないようで、話が出来るようになるまで、いくらか時間がかかりました。

私達は、仕事場を通って、小さな応接室へと行きます。 私達二人を小人にしてしまうような巨大な機械がならんでいるそばを通ります。 私は、炉や金属仕事の基本的なことは知っていますが、そこにあるほとんどの道具が何であるかわかりません。 それらは、コントロールパネルやボタン、ビデオスクリーンで、明らかに日本の工場の、自動化テクノロジーの最新のものです。この日の午後に従業員の一人が、これらの機械を操作して、完全に自動的に、まるで私の妻がよくできたダイコンでも切るように、かたい鋼鉄をつかんで、動かして、切り、削るのを見せていただくことになるのですが。 私は、まさに又タイムマシーンに乗ったようですが、今回は、未来へのボタンを押したようです!

碓氷さんは、非常に親切で、私達はすぐにスチール炭素量、焼き戻し温度、鍛え方について深い話に入っていきます。 彼はこの仕事の三代目で金属の鍛え方について長年研究しています。彼は、いろいろなタイプの鉄やスチールの顕微鏡写真をひき出し来て、なぜある特定量の炭素が金属にまじっていなければならないか、又 特別の温度で鍛えなければならないかについて説明をしてくださいました。 何も『秘密』はなくあるのは長年の手による経験によって得られた深い知識です。 昨年彼が、私に送ってくださった刀は他のメーカーから得たものと、比べものにならないほどすばらしいものでした。 浮世絵の仕事では、細い線を彫るのに可能な限り刀がよく切れなければならなく結果として昨年の六枚の刀は小さく減ってしまいました。 碓氷さんは、小さな包みをあけ、もう12枚の刀を取り出します。 彼は、これらを私が欲しかった二本の大きなノミと一緒に私に下さいました。 彼は、お金を受け取ろうとはしない。 支払いをしょうとすると、これらは通常の仕事ではなく、このような道具を作るのを仕事にしょうとは、もう思っていないと話されます。 この国の他のビジネスと同じように、絶対的に労働者が足りません。 これらの刀を作る仕事は、労力がいり、小さな市場が必要とする製品を作るには時間がありません。

労働力の問題は、仕事場に見られるたくさんの巨大な電動機械の使用になりますが、残念なことに、彫師の仕事用の器具はこれらを生産するのにそのようなテクノロジーを用いる為のプロセスを開発するにはあまりにも市場が小さすぎます。

私は、このことをずっと考えていました。 そして、将来ここに戻ってきて、私自身、炉の中をのぞき込み、桜色のスチールの温度を見積もって、碓氷さんの監督下に、私の好みの形や厚さにたたきたい。 碓氷さんどう思われますか。 私がどうやって刀を作るかを学ぶことが出来ると思われますか。もし碓氷さんに時間がおありでしたら、私はやってみたいと思います。

その日の午後おそく、碓氷さんからのお土産と彼の親切なもてなしの思いを抱いて駅へ戻り、飛ぶように東京へ向かいます。 私が、持ち帰ろうとしているこれらの貴重な刀は、4〜5年中にその一生を終り、そしてあなた方が受け取られている版画が生まれます。これらの版画の持つ魅力の大部分は、繊細な彫りにより生まれます...繊細な彫りは、刀の切れ味や弾力性によります... これは、碓氷さんの職人としての深い知識によります。

碓氷さん、どうもありがとうございます。

コメントする