摺物
これは、「百人一首シリーズ」の最終年となった1998年の初めに作った作品です。この企画の完成までには、まだ10枚を残していましたが、その翌年からどのようなことをしたものかという模索は、すでに始めていたのです。
以前も書きましたように、私はこの新年の挨拶状で、百人一首シリーズでは使えない技法を試みていたわけですが、翌年の企画を考える上でも、同じことが中心課題でした。たとえどのような企画となっても、自分を向上させるきっかけがたくさんあるようにしたいと思っていたのです。
色々と版画関連の本を眺め、面白いと思ったり魅力を感じたりする作品をメモしていると、繰り返し摺物というジャンルに戻ってくることに気付きました。狂歌を愛好する仲間同士が、互いに交換し合うために依頼した作品です。こういった版画は、発行部数がとても少なかったにもかかわらず、和紙も含めて最高級の材料を使い、トップレベルの職人を雇うというように、金に糸目をつけることなく制作されました。
こうした摺物を、シリーズ物として制作しようと考え始めはしたものの、そのように高度な版画が自分に作れるものかは、この時点ではまだ疑問でした。それで、その年の挨拶状のデザインを模索しているときに、今までじっくり観察していた摺物の中から1枚を選んだのです。広重の歌カルタからの作品で、絵の一部を葉書サイズに切り取って使うことにしました。
この作品は彫が非常に細かく、空摺(浮き出し模様)や正面摺(表からの摺)といった摺物特有の技法を含んでいました。
制作は満足のいく結果となり、翌年からは摺物シリーズに取組むという、大きな決断に繋がりました。こうして、その後「摺物アルバム」を5年続けることになったのです。
David