版画小品集 #10


ダルマ

ついに最後、10枚目の作品となりました。これらの作品全部を、新年の挨拶状として私から受け取った方はほんの数えるほどでしたが、10年という時を要しています。でも、皆さんはそれを1年で集めてしまいました!

以前も言及しましたが、この挨拶状を作っていたのは、10年間の「百人一首シリーズ」を進行させていた時で、これは、その企画の最後を向かえた1998年の終わりに制作したものです。それで、このような題材にしようと閃いたわけです。これ以外、どんな題材が思い浮かんだことでしょう!

日本で売られている ダルマは、たいてい1年の命しかありません。新年に購入して、願い事をしたり何か決意をした時に左目を描き入れ、その年の終わりに願いがかなったり決意を達成したら、右目を描き入れます。それから、近くの神社に持って行ってお焚き上げをしてもらいます。

ところが、私の「百人一首 ダルマ」は、随分と長い命を保っているのです!購入したのは10年の企画を始めた年で、まず左目を入れました。それから「彼」は、毎年の展示会の度に私と一緒に移動をして、いらっしゃるお客様達に御挨拶ができるよう、台の上に載せられて会場の一角に置かれたのです。展示会が終わると、彼は再び私の仕事場に戻され、棚の上段から片方しかない目で私の仕事を見つめていました。

彼は、丸10年もの間私の仕事を静かに見守り続け、きちんと役目を果たしたようです。そして、完成展示会で開催したパーティーの時に、会場で娘達と私に右目を入れてもらったのです。忘れることのできない思い出です。

その展示会が終わると私は、再び彼を連れて家に戻って来ました。そして、あまりにも長い間一緒に居た相棒なので、どうしても伝統に従って神社に持って行くという気になれずにいたのです。夜の静けさの中、こうしてこの文を書いている今も、彼は棚の上の方に収まって静かに私を見つめています...

この小品集、お楽しみいただけたことと、心から願っております!

David