版画小品集 #7


手まり

この作品の数枚ほど前を制作していた頃、ちょっとした決めごとを作り、それが百人一首シリーズを終えるまで続くことになります。賀状作りを、日常制作している規制の多い仕事から逃れて、何か特別な作品を試みるきっかけとするようになったのです。もっと細かく彫ってみたい、金属で色を付けてみたい、空摺の技法も試したい...と、やってみたい項目は限りなくありました。でも、これを実行するにはどのような絵を使えばよいのでしょうか。

1995年の暮れ、私は東京の古本屋の外に置かれたワゴンの中に、ぼろぼろの本を見付けました。手に取って良く見ると、各ページに明治41から明治43までの日付が隔週付いていて、関西の新聞社名も入っています。きっとこれは、新聞の購読料を払う時に貰った付録を集めたものだったのでしょう。(日本には現在もこういう慣習があって、有名な版画をオフセット印刷したものなどを頒布しています。)

木版画の歴史を大まかに辿るように選ばれた作品の数々で、ここにある絵もその本の中にあったものです。絵師は小林永濯、糸で刺繍をほどこした手まりをつく少女の絵です。墨摺だけで表現された単純な作品でしたが、私はすぐに閃きました。「これだ!帯には空摺、着物の模様には銀、墨版はとても細かな彫になるから大事に保存してあるツゲの版木を使おう...」

言い値の500円を支払って本を持ち帰ると自分のコレクションの一部に加え、考えた通り次の年賀状の題材として採用することにしました。

それから10年が過ぎましたが、今回のために版木を取り出して調べてみると、ツゲの表面はまるで昨日彫ったかのようです。自分が彫った線は、どれも完璧なまでに鮮明さを残しています。それにしても素晴らしい彫 — この10年間、一体自分は腕を上げてきているだろうか。ちょっと自信がなくなります!

David