版画小品集 #5


小野小町

富士山を印象的に表現したこの作品で、「小品集」はまったく違う方向に進みました。

御覧になっている作品は、私が少し特別な状況にあったことを印すものです。百人一首を復刻し始めて5年目の終わりという、中間点に達した時に作った年賀状でした。

前回書きましたが、百人一首シリーズをしている頃には、彫や摺に関して制約がありました。復刻ですから、自分の思うように制作する自由はなかったのです。最初の2年間は、より良い作品にしようと試みたりせずに、できるだけ原作と同じにしました。でも3年目からは、作品全体としての形式は一定に保ちつつも、色に関しては、もっと魅力的な配色を自分で考えるようになり、あまり原作に忠実でなくなったのです。

それから数年が過ぎると、今度は彫の技術を向上させる必要のないことが不満になり始め、5年目に入った時には、「今年は彫の腕を上げることに集中しよう」と自分に誓ったのでした。

私は、原作を拡大して制作していたので、細かく彫られていた髪の毛は太くなっていました。それで、ただひたすら忠実になぞる意味はないと気付いたのです。そしてある日、一大決心をして、原作と同じくらいの細さに髪の毛を彫ることにしました。結果は上々で、それ以来、作業台の上に「髪の毛」が置かれる度に、この挑戦が楽しみになったのです。

 (絵師が画いたものに、このような変更をしてはいけないと思っておられる方には、ぜひ覚えておいて頂きたいことがあります。江戸時代の絵師は、髪の毛の一本一本といった細かな部分までは画かず、彫師に完成を任せたのです。ですから私は、ただ伝統に従って「できるだけうまく彫る」ようにしているだけです。)

そんな時期でしたから、年末になって年賀状を作る時には、自分が新たに身につけた彫の技法を「自慢」したくなったのは当然のこと、自分でもほとんど見えないくらい細かな模様を絵の中に入れてみたというわけです!

David