版画小品集 #4


朝焼けの富士

富士山を印象的に表現したこの作品で、「小品集」はまったく違う方向に進みました。

この作品を彫った1992年、私はまだ百人一首の企画にどっぷり浸かっていて、喜んで制作に励んでいたのですが、ひとつだけ物足りなさを感じる点がありました。200年前に勝川春章が画いたものですから、手を加える余地はありません。そこで私としては、完成した版画がもっと魅力あるものとなるよう、自分の創り出した色を着物の部分に使っていました。でも、摺の技法に関して応用の幅を広げる余地はなく、異なる方法をとる事はできなかったのです。なぜなら、全百枚はひとつのまとまりですから、すべての作品を同じ手法で作らなければならなかったからです。私は、10年間というもの、版画制作にある「語彙」のほんの一部のみに固着しなくてはなりませんでした。例としてひとつだけ上げると、春章の時代には、ぼかしの技法がまだ発見されていなかったのです!

それで、この年の終わりに年賀状用の版画を作るために版木を用意するとき、殻を破って何か違うことをしたくなったのだと思います。いつも使う桜の版木でなくベニヤ板を、克明で整った輪郭をなくして色のみの区分けにし、刷毛は均一になるよう丁寧に動かすのでなく大胆に版木の上を走らせました。

私には完璧な抽象画を創り出す自信などなく、またそうしたいとも思いませんでしたが、自分とは別の側にいる「創作版画家」たちはどのように制作しているのか、ちょっとばかり探りたくて試みた作品でした。

この作品は好評で、「もっとこういう版画を作って欲しい」という人達がたくさんいました。でも、こういった種類の絵は自分の性格に合わない、とはっきり感じていたので、思い通りの作品を作る機会が再びやって来た翌年には、緻密な伝統方式に戻りました。繊細な彫を土台として精巧な技を駆使した作品です。

次回は、そんな作品を御覧に入れましょう!

David