版画小品集 #3


冬の港

今回は、前回から数百年程過ぎて、1840年代の作品です。広重の画いた有名な10の港、「日本港尽くし」という作品集にある版画の一部です。この場所は後に、広重が予想もしなかったほど有名な場所となり、日本の歴史のなかで特別な役割を果たしました。広重が、雪をいただいた平和な港の夜景を画いてちょうど10年の後、この同じ村が、外国からやってきた船隊を迎える場となりました。もうお分かりですね、そう、浦賀です。1853年に、ペリー提督が黒船に乗ってきた所です。

ところで、この絵はどのくらい写実的なのでしょうか。広重は、作品にした場所のすべてを実際に訪れているのでしょうか。私は最近、「東海道五十三次」ついて分析された記事を読みました。それによると、江戸に近い所のほとんどは、かなり景色が確認できるので、簡単に場所が分るそうです。でも、ある特定の地より遠くなると、あまりはっきりしなくなり、なかなか実際の場所と結びつけることができなくなる、というのです。そして、広重は途中までしか旅をせず、残りは想像で画いたと指摘しています。

ですからこの港は、このように穏やかな所だったのかもしれませんが、少しばかり芸術的な味付けをしてあるのかもしれません。でも、それこそが、広重の版画に私達が期待するところでもあるのです。私達は、写真そのままのような作品を求めているのではなく、情緒を求めているのです。そしてこの絵には、それがたっぷり含まれています!

加えて思うのですが、この有名な港シリーズが出版されてから、それぞれの地では、そこの景色を画いた絵が土産物として良く売れたことでしょう。黒船に乗ってやってきた訪問者の中にも、買った人がいたのでしょうか?もしそうなら、最初にこの国を出た木版画の中の何枚かは、その時に買われた作品となるのです!

David