版画玉手箱 #23


南天にひよどり

もう良くご存知ですね、隠れている作品を探し出してみなさんに紹介するのは、私の楽しみです。でも、これは時としてやっかいな問題を引き起こします。選んだ版画についての、参考になったり興味深いと思えるような情報が、なかなか得られないことが多いのです。今回の作品は、正にそのよい例となってしまいました。知り得たのは、版画集の題と絵師の名前のみ、それ以外は何も分らないのです。

作者は中山嵩岳という人で、江戸の後期から明治が産声をあげる直前まで活躍し、「生写四十八鷹」という版画集を残しました。インターネットを駆使して調べても、この人物に関して知り得たのは、これがすべてでした。

この版画集にあるのは、当時としてはかなり斬新かつ現代的作品だったことでしょう。これほど力量のある絵師が無名なままであるとは珍しいことです。私個人の想像ですが、実際はかなり活躍した絵師で、この作品集に関してのみ別名を用いたのではないでしょうか。

この作品ができたのは、もちろん写真などなかった時代です。ですから、この版画集の絵を見ていると、どうやってこれほどたくさんの鳥を、しかも細部にわたって観察したのだろうかと考えてしまいます。

私自身、この絵の正確さについては保証できるほどです。というのは、私の仕事場の前にかなり大きなヒヨドリの群がいるからです。群の大きさは十羽ほどで、餌を求めて一緒に移動します。夏の間は、こんもりとした木の奥の方に飛んでゆき、枝に止まると頭をあちこち捻るように動かして、葉の裏にいる昆虫を探していました。

彼らは、作業台のすぐ前にあるバルコニーの手すりに止まることがあって、この作品を作っている間にも、彫の手を休めて、ヒヨドリのボサボサ頭にじっと見入ってしまったことがあります。私のすぐ目の前、1メートルとない距離に、「ボサボサ頭」の実物があったのです!

David

平成17年12月12日