版画玉手箱 #17


お月見

今回の作品を御覧になって、「あっ、この絵見たことある!」と思われた方が、多いかも知れません。「版画玉手箱」の中には、見慣れた絵はあまり入っていないはずですから、今回はひとつの例外となることでしょう。私自身、これと同じ版画を3種類持っています。2枚は葉書大で、1枚はもっと大きいものです。どこか伝統木版画を愛好する人たちの目を引くところのある絵だからでしょうか...、少なくとも、出版する人たちの好みではあるでしょう!作者は広重とされていることがほとんどで、確かに彼らしい作風です。

なぜこの時期にお月見の絵を選んだか、日本の方たちにはごく自然なことでしょうが、海外にも、この玉手箱シリーズを集めている方が多いことを考えると、ちょっと気になります。外国の方たちには、日本の暦との関連がちょっとわかりにくいかもしれませんから。でも、日本についてちょっと知識のある方なら、ほとんどどなたも、月を愛でる習慣について少しはご存知でしょう。私は、日本に来る前にこの国に関しての本をたくさん読んでいますが、その多くがお月見のことを書いていました。たいていは次のような描写です。美しい着物姿の人たちが、庭園に面した広縁に集っている。その下には池があり、水面には昇り始めたばかりの満月が映っている。そんな雰囲気の中、互いに美しい月を歌に詠み...。

さて、これは昔の話、時を現代に戻しましょう。このような宴を楽しむ人は、今日もいらっしゃるかと思いますが、どちらかというと稀な例でしょう。現実には、ある時の月の満ち欠けがどのようであるかなど、ほとんどの人たちが知りません。

でも、偶然に満月と出会ったとしたら... ちょうどひと月前の私が、そうでした。夜になって、たまたま自転車で近くまで用足しに出かけたときのことです。角を曲がると、今まで見たこともないほど、大きくて金色に輝く満月に直面したのです。まっすぐに伸びる道路の尽きるところにポッカリ、まるで額におさまっているかのようでした。

こんなに大きく見えることがあり得るのだろうか、と思うほどでした。そして、高く昇っていく様子をじっとたたずんで眺めながら、遠い昔に思いを馳せました。高い建物や電灯のなかった時代には、さぞや空の眺めは素晴らしかったことでしょう!

David

平成17年9月19日