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隈取

前回の作品(姫路城)は、私たちが見慣れている対象物を新たな視点から捉えてみようと考え、デザインをしたものです。観光用の絵葉書によくあるような城ではなく、塀の上を見上げるような視点で捉えてみたのです。ご覧になってお分かりのように、今回の作品にも類似したコンセプトで迫ってみました。ぐっと接近、さらに接近すると……。

私が日本の伝統木版画について書物を読んだり調べたりし始めた頃、役者絵という版画のあることを知りました。作家が生活の糧を得るための手段にするという類いの作品は、どの時代においてもあるもので、役者絵もそうでした。絵師たちの多くは、演技をする役者の迫力を描き出そうと熱心に取り組んだのです。でも、このようにクローズアップをする方法は見たことがありません。映画などで見慣れた手法で、現代に生きている私なればこその利点を活用しました!

お気づきかと思いますが、この版画には他にも特徴があります。それは彫り方です。一般に版画は、筆で描かれた線に沿って彫ってゆくのですが、西洋の木口版画の手法を拝借して、線ではなく「濃淡」で表現しました。実際この版画は一本の線でできています。役者の鼻から始まり螺旋状に伸びる一本の線が、太さを変化させることによって絵が出来ているのです。(これは私が考え出した手法ではなく、1600年代の半ばにクロード・メランというフランスの版画家が初めて用いています。)

さて次回は、伝統的な多色摺の木版画作品に戻る予定ですが、続いた2枚の「冒険的作品」も楽しんでいただけましたよね!

David

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