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紙漉き

「日本の美術」シリーズ、今回の題材は、みなさんが今そこで手にしている物を作る様子です。我が家に戻ったような感じでしょうか。

これは、様々な伝統工芸に携わる職人を描写した「彩画職人部類」という本にある絵で、絵師は橘岷江(みんこう)、出版されたのは1770年です。友人で版画の販売をしている上田真吾君がこの本を2冊所有していて、快く1冊を私に預けてくれました。御陰で正確な復刻をすることができました。

「伝統」という言葉を使いましたが、この本が作られた当時、絵に出てくる職人たちにこういった表現を用いる人はいなかったことでしょう。彼らは、人々が日常使う物を作るという、決まりきった仕事をしているだけのことなのですから。絵の中の女性が作っている和紙は何に使われるのでしょうか。小説本を作るためかも知れませんし、書簡箋、帳簿、提灯、衝立て、はたまた、傘張り用かも知れません。

今こうして上田さんの本をめくっていると、これが240年も以前に作られたことに驚くばかりです。1770年のある日の朝、ひとりの摺師が1日の仕事を初めようと腰を下ろします。(この時、アメリカ合衆国はまだ存在していません!)摺台の上に彫の済んだ版木を置き、和紙を傍らに重ね、このページを数百枚摺ってゆく。その後、版元に集められた他のページと共に綴じられ、売られてゆく。純粋な材料で作られた和紙はとても丈夫なので、数百年を経た現在になっても、こうして私たちを楽しませてくれています。

今みなさんが手に持っているのは越前奉書という最高級の和紙です。災難を防げば、2300年がやって来る頃でも存続し続けることでしょう。ここで聞いて欲しいなあ、僕がこの仕事に生き甲斐を感じているかってね。

David

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