デービッド・ブルが発行している季刊誌「百人一緒」に掲載された記事です。

ここに、バックナンバーがすべて集めてありますので、号数あるいはテーマ別分類から、選んでお読みください。

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前回のニュースレターで、私が25年以上も前に購入した版木について書きました。有効に使う機会を見いだせないまま、ずっと押し入れで眠っているという内容でした。

すると、読者の方たちから意見が寄せられたのです。一番多かったのは、版木を使うべきだという内容でしたが、数人の方は反対で、保存しておくべきだと言うのです。

後者の多くは、この版木の「代用品」がないからという論理です。伝統の技を受け継ぐ熟練職人がもういないのであれば、このような版木はもう作れないのだから、価値ある歴史上の品として保存しておくべきだと言います。

一方使うべきだという方たちの意見は様々です。一部の人はこう言います。版木は使われるのが「正道」であり、それに反する行為は作った人に失礼とも言える。職人は、版画に必要な材料を準備するのが仕事なのだから、その気持を打ち砕くような態度は不名誉であると。私には、自分の仕事と類似している面があるので、良く分かります。私の作品が、あちこちの美術館の引き出しに収納されるだけで、一般の人が見られず楽しめなかったら、版画を作る意味があるでしょうか?

中でも一番多かったのは、すぐに使うべきだという意見です。「できるうちに」と言うのです。お分かりになりますよね。ちょっと複雑な気持です。私はもうそんな年齢なのでしょうか? 

私自身はそれを認めたくはないのですが、これ以上迷い続けるのはあまり良くないだろうということは、否定できません。

ですから、みなさんの意見を考慮して、今年の終わりに現在の「美の謎」シリーズが完成する頃には、この版木に最も相応しい特別な作品について考え始めることをお約束します。

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